stelo*yoco

アートで呼吸する日常

女かトラか

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その国で 王は 絶対的な権力を 持つ。
王のすることには 誰も 逆らえない。
その国の中心地には 巨大な円形の闘技場が 在る。
おびただしい数の 観客席が 会場をグルッと 囲む。

しかし。ここは「 裁判所 」。

罪に問われた者は 例外なく。ココに立たされる。
目の前には 二つの扉。
被告人は 自らの手で どちらかの扉を 選び 開ける。
それが 決まり だ。

一つの扉には トラが 待ち構えていて
一瞬にして 身体を 引き裂かれる。

もう一つの扉には 女が。
被告人の 地位 や 年齢 に ふさわしい女を
王が選び。そして。結婚するのだ。
妻子がいようが 恋人がいようが 即座に 神父が
それに続いて 聖歌隊 と 舞踏団 が 現れて
王 と 観客に 見守られながら すみやかに 式が はじまる。

罪に問われた者が 自らの手で 運命を決める
公式な やり方に たいへん 人気のある 制度だった。

この王には 娘がいた。王に似て 激しい性格の王女は
ある家臣と 恋をしていた。しかし。
身分の低い家臣との仲を 王が 認めるはずも 無い。

王女の恋心を 知るや 即座に 裁判となった。

国中の観衆が犇めき 号砲を合図に その男が歩み出た。
スラリと背は高く 彫刻の像のように 美しい。

「 我が国に こんなに美しい 男が 居たなんて 」

口々に ささやく 観衆の思いは 一つ。
「 王女が 恋に落ちたのも ムリは無い 」
彼が 罪に問われるとは なんと むごいコトであろうか。
しかし。王の名において これは 絶対だ。

男は 作法に従い 振り返って 王に一礼する。だが。
その目は 愛しい王女を 一点に 見つめていた。

「 王女なら 知っているはずだ 」

王女の性格と その行動力を知る男は 一瞬の
目の会話で 扉の謎を 尋ねた。
「 どっちだ?」

一方。王女は あらゆる手段を 駆使して
王の知らぬ間に 扉の秘密を 知ることが
できたというのに。男が立つ この瞬間まで
ずっと 苦しみ抜いていた。もちろん。
愛する男が トラに 噛み殺される瞬間を
観たいはずが 無い。だが。しかし。あの
美しい娘と 結婚するのも 耐え難い。
そして。
いま 愛しい人が 自分に 目を向けている。
闘技場の 真ん中 立っている。
彼の眼からハッキリと 感じ取っていた。

静かに。右手を 持ち上げると 王女は
右の耳に 髪の毛を かけた。すると。男は
迷わず 右の扉に 歩き始めた。
扉の先に 現れたのは 果たして?

女かトラか

Frank R. Stockton / The Lady, or the Tiger ?
翻訳/Yoco